上場株式を相続したとき、その株式に配当が絡んでいると、相続開始日が配当のどの段階にあるかによって、株価の評価方法も、配当に関する権利を別に計上するかどうかも変わります。境目は「配当落ち日」「基準日」「効力発生日」「支払日」の4つです。本稿は、この切り替わりを時系列で整理したものです。
横軸が時間です。丸印が境目の日、その下の帯が「相続開始日がそこにあるときの取扱い」を示します。
図の間隔は説明のためのもので、実際の日数の比率ではありません。権利付最終日から基準日までは通常2営業日、基準日から効力発生日までは3か月以内(会社法124条2項)です。
「配当落ちした株価をそのまま使い、配当期待権を別に足す」という処理は、基準日の翌日以後に相続が開始した場合にだけ正しい扱いです。配当落ち日から基準日までの間に相続が開始した場合は、逆に株価を配当落ち前に引き戻し、配当期待権は計上しません。どちらか一方が正しいのではなく、相続開始日の位置で使い分けます。
| 相続開始日の位置 | 株式の評価 | 配当に関する権利 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 権利落ち日の前日以前 | 課税時期の最終価格(配当込み) | 計上しない | 評基通169 |
| 配当落ち日から基準日まで | 配当落ち日の前日以前で課税時期に最も近い日の最終価格に置き換える | 計上しない (配当期待権はまだ発生していない) |
評基通170 |
| 基準日の翌日から効力発生日まで | 課税時期の最終価格(配当落ち後のまま) | 配当期待権 予想配当額から源泉税相当額を控除 |
評基通168(7)・193 |
| 効力発生日の後、支払日まで | 課税時期の最終価格(配当落ち後のまま) | 未収配当金 その他の財産に計上 |
評基通168(7)の期間外 |
| 支払日の後 | 課税時期の最終価格 | 計上しない(現預金に混入済み) | — |
この期間に相続が開始すると、被相続人は基準日に株主名簿に載るため配当を受け取る権利を得ます。しかし市場の株価はすでに配当分が落ちています。そのまま評価すると、配当の価値がどこにも計上されないことになります。
そこで通達は、株価を配当落ち前に引き戻すことで配当の価値を株価に含めます。配当期待権を別に計上しないのは、二重計上を避けるためです。
この通達が本文で「権利落又は配当落(以下『権利落等』という。)」と定義している点が重要です。増資による権利落ちだけでなく、配当落ちも対象です。実務書には「権利落=増資による権利落のみ」と読ませる説明や、この特例を別の番号で引く説明が流通していますが、通達の文言は上記のとおりです。
上場株式は「課税時期の最終価格」と「当月・前月・前々月の月平均額」の4つのうち最も低い価額で評価します(評基通169)。このうち月平均額については、配当落ちの場合は修正しません。評基通172は(1)から(4)のすべてで、配当落ちの場合を括弧書きで切り出し「その月の初日から末日までの毎日の最終価格の平均額」=無修正としています。国税庁の「上場株式の評価明細書」の記載方法も、修正計算の対象を「増資による権利落等」と限定しています。株価は戻すが月平均額は戻さない、という非対称に注意してください。
会社が株主を確定する日です。通常は事業年度末日です。
株式の受渡しに2営業日かかるため(2019年7月16日約定分からT+2)、基準日に株主名簿に載るには基準日の2営業日前(権利付最終日)までに約定している必要があります。その翌営業日、つまり基準日の1営業日前が権利落ち日です。この日以降に買っても配当は受け取れないため、株価は配当相当額だけ下がります。
ここが実務で最も誤りやすい点です。株主総会の決議日そのものではありません。会社法は、剰余金の配当を決議する際に「その配当がその効力を生ずる日」を決議で定める事項としています。
さらに、会計監査人設置会社が定款で定めた場合には、これらを取締役会が決めることができます(会社法459条1項4号)。この場合そもそも株主総会決議が存在しません。したがって効力発生日は、決議日から推測するのではなく、議事録で「効力を生ずる日」として定められた日を確認する必要があります。
相続開始日が基準日の後にある案件では、株主総会または取締役会の議事録を取り寄せ、①決議機関(株主総会か取締役会か)、②決議で定められた効力発生日、③実際の支払日、の3点を確認します。この3つが分からないと、配当期待権なのか未収配当金なのかが決まりません。
予想配当額の満額ではなく、源泉税を引いた手取額で評価します。相続人が実際に受け取るのが手取額であることと整合します。控除する率は、上場株式か非上場株式かで変わります。
| 区分 | 所得税+復興特別所得税 | 住民税(配当割) | 控除率の合計 | 評価額 |
|---|---|---|---|---|
| 上場株式等 (大口株主等以外) |
15.315% | 5% | 20.315% | 予想配当額 × 79.685% |
| 非上場株式 大口株主等が受ける上場株式 |
20.42% | なし | 20.42% | 予想配当額 × 79.58% |
大口株主等とは、発行済株式の総数等の3%以上を保有する個人をいいます(租税特別措置法9条の3第1号)。
通達193は「特別徴収されるべき道府県民税の額に相当する金額を含む」と書いていますが、非上場株式の配当には道府県民税(配当割)の特別徴収がありません。地方税法上、配当割の対象となる「特定配当等」は上場株式等の配当等に限定されているためです(地方税法23条1項15号、71条の28)。したがって非上場株式の配当期待権で控除するのは20.42%です。20.315%を機械的に当てはめると評価額を誤ります。
効力発生日を過ぎて支払日前に相続が開始した場合、配当期待権ではなく未収配当金として計上します。国税庁の「相続税の申告のしかた」は、未収配当金を第11表の「その他の財産」の細目「その他」に記載するよう求めており、申告のためのチェックシートにも「未収配当金の計上漏れはありませんか」という確認項目があります。
ところが、その評価額を額面とするか源泉税控除後の手取額とするかを明示した通達・質疑応答事例・裁決は見当たりません。条文上は両方の材料があります。受け皿となる評基通204は元本を「その返済されるべき金額」とし、源泉税の控除規定を置いていません(額面説の材料)。他方、配当決議の前後で課税価格が不連続に動くのは不合理であるという整合性の観点からは、配当期待権と同様に手取額とするのが自然です。
実務上は手取額とする取扱いが一般的とされますが、採用した考え方を説明できるようにしておく必要があります。
ここまでの整理を、具体的な日付と金額で確かめます。次の設例で考えます(会社名・株価・配当額は説明のための仮のものです。日付は実際のカレンダーに合わせています)。
年末は12月31日から1月3日まで取引所が休業します。2026年の大納会は12月30日(水)です。基準日が休業日に当たるときは、配当落ち日は権利確定日の2営業日前になります(東京証券取引所 業務規程施行規則18条2号ただし書)。通常の月末基準日(1営業日前)とは1日ずれるため、年末の案件では特に注意が必要です。
| 日付 | 曜日 | 意味 |
|---|---|---|
| 2026年12月28日 | 月 | 権利付最終日 この日までに約定すれば基準日に株主名簿に載る |
| 2026年12月29日 | 火 | 配当落ち日 この日以降に買っても配当は受け取れない |
| 2026年12月30日 | 水 | 大納会(この年の最終取引日) |
| 2026年12月31日 | 木 | 基準日 取引所は休業 |
| 2027年3月29日 | 月 | 効力発生日 議事録で確認した日 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 2026年12月28日(月)の終値 | 1,250円 |
| 2026年12月29日(火)の終値 | 1,195円(配当落ちで下落) |
| 2027年1月15日(金)の終値 | 1,210円 |
| 2026年10月の月平均額 | 1,190円 |
| 2026年11月の月平均額 | 1,240円 |
| 2026年12月の月平均額 | 1,215円 |
| 2027年1月の月平均額 | 1,205円 |
配当落ち日の前日なので、株価は配当込みです。特例の適用はありません。
配当落ち日から基準日までの間なので、評基通170により課税時期の最終価格を配当落ち日の前日以前の価格に置き換えます。実際の終値1,195円ではなく、12月28日の1,250円を使います。
一方、月平均額は配当落ちでは修正しません(評基通172の各括弧書き)。12月の月平均額1,215円は、配当落ち後の日を含んだまま使います。
株価を1,195円から1,250円に戻しても、最終的に採用されるのは10月の月平均額1,190円なので、ケース1と同じ評価額になります。置換した株価が採用されるのは、それが4つの中で最も低いときだけです。逆に、直近3か月が右肩上がりで月平均額が高い相場では、置換の有無がそのまま評価額に効きます。「株価を戻す」作業をしても結果が動かないことは珍しくありませんが、手続として省略してよいわけではありません。
ここが配当期待権の場面です。株価は配当落ち後のままで評価し、配当期待権を別に計上します。
配当期待権は第11表で「その他の財産」の細目「配当期待権」として、財産の名称等の欄に銘柄名を記載します。
効力発生日(3月29日)を過ぎているため、配当期待権ではなく未収配当金になります。細目は「その他」です。
前述のとおり、どちらによるかを明示した一次資料は見当たりません。実務上は手取額とする取扱いが一般的とされますが、採用した考え方を説明できるようにしておきます。
| 相続開始日 | 株式の評価 | 配当の権利 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 2026年12月28日 | 2,380,000円 | — | 2,380,000円 |
| 2026年12月29日 | 2,380,000円 (株価を1,250円に置換) | — | 2,380,000円 |
| 2027年1月15日 | 2,410,000円 | 配当期待権 79,685円 | 2,489,685円 |
| 2027年3月30日 | その日の評価額 | 未収配当金 79,685円 | — |
配当期待権の考え方は同じですが、株式側の処理が上場株式と逆の構造になります。上場株式は市場価格が配当落ちを自動的に織り込むのに対し、取引相場のない株式の評価額は直前期末の計数に基づくため、配当が出ていく分を織り込みません。そこで通達が明文で控除を指示します。
評基通187(1)が株式の評価額から控除するのは税引前の「予想配当の金額」です。これに対して、同時に計上する配当期待権は評基通193により税引後の金額です。両方を行うと、課税価格は源泉税相当分だけ減少します。これは設計としてそうなっているもので、誤りではありません。
実務で起きやすいのは、この2つのうち片方しか行わないことです。株価の修正だけして配当期待権を忘れる、あるいは配当期待権だけ計上して株価を修正しない、のいずれも誤りになります。
なお類似業種比準価額の計算でも、比準要素である「1株当たりの配当金額」は効力発生日を基準に捉えます(評基通183(1)注1「各事業年度中に配当金交付の効力が発生した剰余金の配当金額……を基として計算することに留意する」)。ここでも会社法454条1項3号の効力発生日が判定の基準になります。
また、直前期末の翌日から課税時期までの間に配当の効力が発生している場合は、類似業種比準価額から受けた配当額を控除します(評基通184(1))。
株式から引くのは30円(税引前)、足すのは238,740円(税引後)です。この非対称のため、課税価格は源泉税相当額61,260円だけ減ります。相続人が実際に受け取るのが手取額であることと整合します。
| 処理 | 課税価格 | 正しい金額との差 |
|---|---|---|
| 正しい処理 | 49,938,740円 | — |
| 株価の修正だけ行い 配当期待権を忘れる | 49,700,000円 | 238,740円の計上漏れ |
| 配当期待権だけ計上し 株価を修正しない | 50,238,740円 | 300,000円の過大評価 |
B社は非上場なので、控除するのは20.42%です。上場株式と同じ20.315%を使うと源泉徴収税額が60,945円となり、配当期待権は239,055円、315円だけ過大になります。この設例では小さな差ですが、配当額が大きい案件では無視できません。予想配当額が3,000万円なら差は31,500円です。